シキミの育て方
シキミの育てる環境について
広い地域で栽培できますが、温暖な気候の土地でよく生長します。寒冷な気候でも霜程度には耐えますが、長く雪が積もるような極寒の寒冷地には向いていません。また、乾燥には弱く、長い乾燥状態が続くと成長が滞るうえに葉の色も悪くなります。
そのため、じめじめとした場所を好みます。日光自体は嫌いではありませんが直射日光には弱いので、育て方としては明るい野外で直射日光の当たらない日陰に植えると良いでしょう。特に根元の乾燥に弱いので、西日の差さないところに植えてやるようにします。
場所がなければ遮光ネットなどを利用するか、シキミの根元に陰を作ってくれるような植物を一緒に植えましょう。もともと樹木としてはどちらかと言えば小ぶりの大きさですが、家庭の栽培環境では高くても2~3m程度に収まるでしょう。高くしたくない時の育て方としては、
適度な大きさになった時に中央の一番太い枝を剪定するとそれ以上伸びなくなります。さらに、脇芽のやや上から先の枝を落としてしまう摘心という作業をしてやれば脇芽が伸びてきて枝が増え、樹高が低くてもより多くの枝が採れるようになります。
また、樹の形が崩れにくいので観賞用として栽培するのにも適しており、枝が密集しやすいので生垣としての利用も可能です。また、実ができる時期には子どもの手に触れないようにするか、よく言って聞かせて注意を促し、ペットがいる場合は近づけないように工夫する必要があります。
シキミの種付けや水やり、肥料について
植え付けの時期は春か秋です。雨が多すぎる梅雨時や土が乾燥しやすい真夏は避け、気温が下がって苗が弱りやすい真冬も避けましょう。特に植え付けて最初の年は寒さに影響を受けやすいです。植えるときは庭に直植えでも鉢植えでも構いませんが、水はけのよい肥沃な土壌が適しています。
園芸用に市販されている配合済みの土を調達するか、庭土と腐葉土と赤玉土を自分で混ぜて作っても構いません。雨降りの後に穴を掘ると水が湧き上がってくるような場所は適していないので、その場合は鉢植えにしましょう。園芸向けに種を販売しているところはそうそうありませんし、
種からの植え付けでは育成に時間を必要とするので、購入する場合は苗木の形になるでしょう。植え付けは浅目にします。水やりは土が乾燥しないようにたっぷりと行います。雨の多い土地で日陰に直植えする場合はほとんど必要ありません。
鉢植えの場合は日陰でも気を遣うようにしましょう。ただし、根腐りしやすいのでやりすぎにも注意が必要です。上手な育て方としては、土が乾いたらたっぷりやる、ということを心掛けてください。特に若木のうちは根自体が弱いので、乾燥にも水のやりすぎにも注意が必要です。
乾燥以外にも栄養状態も葉の色に影響します。特に弱りやすい冬には寒肥を与えると良いでしょう。一番寒さが厳しい時期に木の株の周りに根を傷つけないように穴を掘り、油かす、腐葉土、堆肥を埋めて与えます。鉢植えの場合は2、3年に一回程度植え替えると良いでしょう。
シキミの増やし方や害虫について
シキミは挿し木によって比較的簡単に増やすことができます。挿し木の育て方として、まず時期は植えて2年目以降の6月から7月、春に伸びてきた若い枝が硬くなってきた時期が適しています。若くしっかりとした枝を選んで先端から15cmほどの所で切り、苗と同様に水はけの良い土に植えます。
植えたら定着を促すためにたっぷり水をやりましょう。1年目にはあまり大きくなりませんが、2年目以降に勢いよく生長します。また、種を収穫しておけば種から増やすこともできます。その場合は収穫してすぐに蒔くか、翌春まで保管しておいて蒔きましょう。
ただし保管場所には注意してください。土や水の管理は苗や挿し木と同様ですが、当然ながら生長には時間がかかります。害虫はアブラムシや葉や茎の汁を吸うカイガラムシ、葉の裏に寄生するシキミグンバイや葉にこぶを作るシキミタマバエなどがおり、いずれも発生初期に防除する必要があります。
特にカイガラムシは糞によって「すす病」という病気を引き起こすので注意が必要です。この病気はシキミに致命的な影響を与えることはありませんが、外観を損ねます。具体的な対策としては、虫や病気が発生した枝はすぐに切除して廃棄すること、成虫を見つけた場合はすぐに殺すこと、
虫の温床とならないように冬場は特にシキミの根元付近の枯葉や枯れ枝を除去し地表を綺麗に保つことなどが挙げられます。また、シキミは枝が密集しやすいので、適度に枝を間引きして通気性を確保すると、より虫が住みにくく病害を受けにくくなります。
シキミの歴史
シキミはシキビ、ハナノキ、コウノキなどとも呼ばれる常緑の小喬木です。以前はモクレン科でしたが、現在ではシキミ科という独立した科に分類されています。日本と中国が原産地で、日本では東北地方以南に自生し、関東より西の四国地方・中国地方・九州地方・沖縄地方の山地を、
主な生息地として広く分布しています。仏前に飾る木として有名で、神社での神事で用いられるサカキに対して、シキミは寺院での儀式や仏事に用いられます。シキミの名の由来は諸説あり、強い毒性を持つことから「悪しき実」とされたのが転じたとする説、
実の形が平べったく敷物に似ていることから「敷き実」と呼んだとする説のほか、四季を通して美しいことから「四季美」、独特な強い芳香を放つことから「臭き実」など様々です。いずれにせよ、季節を通して美しい緑の葉を広げて生い茂る性質と独特の芳香から、
年中飾れる仏前木として古くから利用されてきました。また、枝葉を乾燥させて粉末状にして線香や抹香の材料にするなどの転用がされているほか、含まれる成分がインフルエンザ治療薬の「タミフル」という薬の材料として用いられるなど、加工品の原料としての栽培もされてきました。
一方で、毒性を持つ植物としても知られます。特に実の部分に強い毒性を持ち、しかもその実の形が食用のスパイスとして用いられる八角に似ていることから、誤食して中毒症状を発症する事件がたびたび起こってきました。
そのため、シキミの実は「毒物及び劇物取締法」により劇物指定を受けており、栽培そのものに関しての規制はありませんが、実の部分については無許可での販売や譲渡が禁止されています。
シキミの特徴
年間を通して深緑色の葉が生い茂る常緑樹で、枝葉から独特の強い芳香を放ちます。樹高は自然の状態では10mほどになります。まだ若いときの枝は若緑色ですが、成熟した枝や幹の表皮は暗褐色でざらざらとした質感で、年を経ると共に薄くひび割れが入ります。
葉は大きいものでは10cm程度で光沢のある深緑色です。厚みがあり、葉の元から葉の先端に向かってやや波打つような形状になるのが特徴です。3月から4月くらいの春先になるとピンポン玉ほどの直径で細い花弁を持つ薄黄色の花をつけます。また、変種で赤い花を咲かせるものもあります。
実は9月頃に成熟します。未熟な状態では花のつぼみのようなやや平たい球体で若い枝と同じ若緑色ですが、成熟すると暗褐色になって開き、スパイスの八角ことトウシキミの実に酷似した形状になります。八角に比べると小ぶりで匂いが少なく、
8つの袋の先端がとがっているのが特徴です。シキミの樹には枝葉はもちろん花や根なども含むすべての部分に毒性がありますが、その中でも実はその形状から誤食しやすく、しかも最も毒が集まっているため子供やペットが誤食しないよう注意が必要です。
動物は基本的に毒草を避けて食べるものですが、シキミの実に関しては察知するのが難しいらしく、放牧中の家畜の健康被害が報告されています。さらに、実の形の面白さや物珍しさから小さい子どもがオモチャにしやすいので、栽培する際には気を配る必要があります。
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